このページでは、小学校英語教育に関する良書を推薦していきます。

▽教員免許更新講習の準備が始まっている     高梨 庸雄
 2008年4月22日

 村野井 仁(2006)「第二言語習得研究から見た効果的な英語学習法・指導法」(大修館書店)は「知る人ぞ知る」名著である。読んだ人から人へのクチコミで、静かに、しかし確実に読者層が広がっている。そういう本であるから、この本をBookshelfで取り上げるのは、筆者が駄文でPRするためではなく、下にのべるような背景がある。

 読者の皆さんもご存じのように、教員免許状更新講習の準備が始まっている。文科省のホームページに拠ると、その主な内容は次の2本である;@教育の最新事情に関する事項(12時間)、A教科指導、生徒指導その他教育内容の充実に関する事項(18時間)。中身は「教職についての省察」「子どもの変化についての理解」「教育政策の動向についての理解」「学校の内外での連携協力についての理解」となっている。一方、Aの中身については、各教科の指導法やその背景となる専門的内容、生徒指導など、幼児・児童・生徒に対する指導に係る各論的な内容が中心になっている。

 講習の開設者は、主な対象者や具体的な内容を明示して講習を開設し、開設される講習は、一覧として文部科学省のホームページにおいて情報を提供し、選択しやすい形にすることになっている。つまり受講者は必要な講習を選択し、受講できることになっている。

 上記前半の「内容」については人によって意見が異なるかもしれないが、後半の「運営方針」については歓迎する教員も多いのではないだろうか。しかし、真に歓迎される講習になるためには一つ大事なことが残されている。それは免許状更新講習開設者が共有すべき講習内容及び展開に関する理論的・実践的枠組みである。それがまだはっきりした形で提示されていない。一例を挙げれば、二十代、三十代、四十代、五十代の各教員に対する講習内容について、何が同じで何が違うのかがわかるような段階的講習カリキュラム一覧表が作成されていない。ある講習開設予定者の計画を見たマスメディアの人は「あまりのお粗末さに唖然とした」と述べている。そういう講習がすべてだとは思っていないが、お粗末な講習計画が出てくる要因を考えてみる必要がある。そして、充実した講習内容にするためには開設者・受講者が共に自分たちの仕事の目的・目標及びその達成手段を日ごろから検討する視点を共有する必要がある。

 村野井氏の本を紹介するのは、そのような視点について考えるためである。終章を含めると全部で10章から成る氏の本から、取り上げられている主なトピックを挙げてみよう。これらは章のSub-Titlesとして使われているものである。

・どのようなインプットをどのように取り入れればよいか。
・対話することはなぜ大切なのか。 ・アウトプット活動をすることによって何が育つのか。
・文法や語彙はどのようにすれば使える知識として身につくのか。
・第二言語学習を左右する心理的要因にはどのようなものがあるか。
・どのような学習ストラテジーを使えば効果的な学習ができるのか。
・社会の中でことばはどのように使われているのか。  英語における配慮表現をどう身につけるか。
・なぜ第二言語として英語を学ぶのか。
・どのような第二言語能力を育てるのか。

 村野井氏は「第二言語習得」(Second Language Acquisition略してSLA)には「外国語」(foreign language)を含ませて考えている。その主な理由は、一つにはインターネットの普及などによって、非英語圏にいながらも英語を使用する機会が増えてくるなど、狭義の「第二言語」と「外国語」の境界が曖昧になる方向に進んでいること、さらに「外国語」ということばの中には、言語と必ずしも並立しない「国」の概念が入っているからである。

 上記のトピックに関する内外の実証的研究(氏自身による研究も含む)を仔細に検討して、信頼するに足る内容のものを平易に記述したのが本書である。職場や同じ地区の有志が集まって、このような本をもとに意見を交換するのに役立つことを願っている。

▽第二言語習得のやさしい入門書(洋書)      筑波大学大学院  卯城(うしろ) 祐司
 2007年10月11日

 推薦図書 :Lightbown, P. M., & Spada, N. (1999). How Languages are Learned (2nd ed.). Oxford University Press.

 小学校の先生が、初めて第二言語習得についての専門書を洋書で読むとしたら、迷わず、この一冊をお薦めします。私の手元にあるのは第2版 (1999) ですが、2006年に第3版も出ています。研究者や大学院生を読者対象としていないため、専門用語があまり使われていません。したがって、この本を読むにあたって、英語教育学や第二言語習得理論について、何の予備知識も必要ありません。また、具体例を豊富に挙げながら平易に説明しているため、英語自体がとても読みやすいのも特徴です。万一わからない単語に出会ったとしても、そこに書かれている例などを頭に入れて読み直すと、おそらく著者が言わんとするところを把握することが出来るでしょう。

 ただ、専門家を対象としていない分、内容が浅く感じられることは否めません。各章の最後に、その分野に関する書籍や論文のリストが掲載されていますので、興味を持った分野については、この本で得た「地図」を頼りに、幾つか文献などを読んでみると良いと思います。

 さて、本書は次の7章からなっています。第1章は「母語の習得」について解説しています。言語の獲得プロセスについて、獲得される時期や子どもたちの話す言語の特徴から考察しています。 こどもは大人の言葉をただ模倣するだけでなく、言葉のルールを獲得し、自分で言葉を組み合わせたりしているのです。その例として、WUG Testが掲載されています。これは、こどもたちに想像上の生物の絵を見せ、"Here is a wug. Now there are two of them. There are two ( )." "Here is a man who knows how to bod. Yesterday he did the same thing. Yesterday, he ( )." とたずねます。もちろん、wug やbodという言葉は実在しません。それでも、こどもたちは空所の中を正しく文法規則に従って埋めることができるのです。このほかにも様々な理論や事例が解説されているのですが、1970年にカリフォルニアで発見されたGenie (13歳) の例は、あらためて、人間が人間になるためには、才能だけではなく環境・教育の力が必要であることを示してくれます。

 第2章は「第二言語習得」についてまとめています。第二言語習得は、すでに少なくともひとつの言語を習得している状態から始まるため、言語の機能について予測することができる一方、母語をもとにした誤った推測を導くこともあります。さらに、大人は間違いを犯すことに神経質になるが、こどもは、それほどストレスを感じないことがメリットとしてあげられるなど、様々な理論が紹介されています。

 第3章は「第二言語学習に及ぼす要因」です。こどもたちは、ほぼ例外なく最初の言語、すなわち母語を獲得出来る一方、第二言語の習得に関しては、学習者の特徴、知性や適性、動機や態度、そして学習開始年齢などによって、その到達度は様々となります。本章ではこのような学習者の特徴を知ることにより、どの程度個々の第二言語習得の違いを予測できるのか、論が進められています。

 第4章は「学習者言語」についてです。学習者が犯すerror (誤り) の持つ意味について、第二言語習得における母語の影響についても留意しながら解説されています。例えば、errorは常に悪いものではなく、既に理解した文法ルールを適用したがために発生する場合もあります。つまり、errorの増加は学習者の進歩のしるしでもあり、学習言語を積極的に使おうとしている現れであるとの見方は、中間言語の考え方と重なり、初級学習者の指導にあたっては大いに心にとめておくべき点でしょう。

 第5章は「第二言語の指導」となります。特に、Lyster and Ranta (1997) が、教師が与える様々なフィードバックと、それに対する生徒の反応 (uptake) を重点的に取り扱っています。このフィードバックは、(a) explicit correction, (b) recasts, (c) clarification requests, (d) meta-linguistic feedback, (e) elicitation, (f) repetition, に分類され、教師が用いるフィードバックでは、recastが最も頻度が高い一方、生徒の理解はrecastsが一番良くないことにも気づかされます。

 第6章は「教室内における第二言語習得」です。この章で挙げられる指導のポイントは、(a) Get it right from the beginning, (b) Say what you mean and mean what you say, (c) Just listen…and read, (d) Teach what is teachable, (e) Get it right in the end の5つです。特に「初めから正確に」指導すべきかどうかという点は、コミュニカティブな教授法や学習者の動機づけの面からみても興味深いものです。さらに、初期段階から形式に重点をおいた指導が、意味に重点おいた学習法よりも高い言語能力に到達するという仮説を裏付ける結果はなくform-basedに対するmeaning-basedの仮説の優位性が支持されると述べられています。

 第7章は「言語学習に関わる一般的な考え」を紹介しています。例えば、「模倣 ( imitation) を通して言語は習得されるか」、「文法事項は1つずつ教えるべきか」などについて解説されています。解説の中で、学習者個々の性質、母語や目標言語の構造、目標言語の話者とふれ合う機会、訂正へのアクセスと形式重視の教育などの要素について、教師がより深く理解することを望んでいます。

 以上、本書を概観しましたが、小学校の英語指導に携わる方には是非一読していただきたいと思います。どんなに創意工夫にあふれた英語活動であっても、油断をすると、すぐにパタンプラクティスに陥ってしまいます。外国語としての第二言語の学習ですから、ある程度の練習は必要ですが、どれ以上がパタンプラクティス偏重の授業となるのかなど、授業を振り返る際の鏡として、本書の活用をお薦めします。

 

▼ 発音練習と多読の薦め       長崎大学名誉教授  放送大学客員教授  大坪喜子
 2007年7月5日

 平成6(1994)年度から6年間、県内の小学校英語研究開発校(2校)に関わったり、小学校での英語活動に関心のある20年経過教員研修会(2002)を担当したりして、小学校教員の置かれている現状を垣間見ることがありましたが、小学校教員に英語そのものの訓練の機会を提供するという配慮はどちらかといえば少なかったように思われます。各自が、個別に努力しておくべきものとして扱われていたのかもしれないのですが、それまでの学校英語教育の中で経験していない音声中心の英語指導は、負担の重いものとなっているように思われます。ここでは、小学生のための英語指導に関心のある小学校教員が、自らの発音練習(訓練)と英語に慣れるための多読練習(訓練)に利用できる本を取り上げたいと思います。

 まず、発音練習(訓練)に関するものですが、鷲見由理著『英語の発音が正しくなる本(CD付)』(ナツメ社)を挙げたいと思います。1人で練習する場合でも、仲間と一緒に練習する場合でも、わかりやすく、使い易い英語発音練習用の本です。CDに録音されているアメリカ英語の音声も聞きやすく、飽きずに続けることができるように思います。例えば、「r」の発音についてみると、「舌の先を丸め、口の奥の方へ近づけ、舌に力を入れて、「ル」と言うと「r」の発音ができます。舌の先を上の歯ぐきにもどこにも触れないようにしましょう。日本語の「ラ、リ、ル、レ、ロ」のように、舌の先で上の歯ぐきをたたいて発音しないように気をつけてください。(p.104)」と説明し、すぐに、CDを聞きながら、単語の発音練習が続きます。この他にも、いろいろな本があると思いますが、参考例としてご紹介いたします。"World Englishes"(世界緒英語)という考え方も理解したうえで、やはり、世界各地の人々と効率よくコミュニケーションをするためには、教師自身がある程度はきちんとした発音訓練をして(または、受けて)、自分の発音がどのようなものかを録音して客観的に聞いてみるなどして、自信をもって、小学生たちにモデルを示していただきたいと思います。

  次に、多読練習(訓練)に関するものですが、理論的背景として役に立つものとして、Richard R. Day & Julian Bamford, Extensive Reading in the Second Language Classroom (1998) (Cambridge)を挙げたいと思います。本書では、多読指導法の特徴として(1)学習者はできるだけ沢山読む、(2)教材は広い範囲の話題のものを用意する、(3)学習者は読みたいものを選び、読みたくなくなったらいつでも止めてよい、(4)読む目的は、楽しみ・情報・一般的知識を得るためである、(5)読むこと自体を楽しむようにする、いろいろな読後の仕事を課さない、(6)教材は学習者の言語能力で十分わかる範囲のものである、(7)個々人で読み、黙読にする、(8)読む速度は、通常、すぐに理解できるやさしい教材を読むので、ゆっくりというよりは早くなる、(9)教師は、プログラムの目標・方法を学習者によく理解させ、1人ひとりの学習者が何を読んだのかを確認する、(10)教師は、読み手の役割モデルである、の10項目が挙げられています。これらは、多読指導をする教師の観点から纏められていますが、特に、(1),(3),(4),(5),(6),(7),(8)の項目は、多読に取り組む学習者の立場にもそのまま応用できます。すなわち、それぞれが自分のレベルに合わせて、易しいものから徐々にレベルを上げてゆくという方向で、直接、英語で書かれた内容を理解し、読み取り、そして、何よりも楽しんで沢山読むことを目指すというものです。時間の経過とともに、英語に馴染んだという実感を得ることができるようになります。

 具体的な教材として、Penguin Readers, MACMILLAN GUIDED READERS, OXFORD BOOKWARMSなどのシリーズから選ぶことができますが、文学作品も数多く取り入れられており、楽しくてつい読んでしまうというような作品が沢山入っています。

  2005年2月から2007年2月まで、多読の実験と称して、上記のDay & Bamford (1998) を参考に、放送大学長崎学習センターで希望者を対象に多読指導を続けてみました。1年間では、ようやく読むリズムができたという段階であまり成果は見えませんでしたが、2年間が経過する頃になると、それぞれが英語に慣れたという実感を持つようになり、英語から直に内容を読み取ることができるようになっていることに気付いてうれしそうでした。多い人は50冊位、少ない人でも20冊は読んでいます。読む教材のレベルは、それぞれのレベルに合わせて自分で選びますが、それぞれが満足できる方法であることがわかりました。お1人で、または、グループでお試しください。

▼ 競争から共生へ       京都外国語大学     齋藤 栄二

 今回はJESのBookshelfのコンセプトを少し広げてみたいと思いました。取り上げようと筆者が考えたのは、安部晋三著「美しい国へ」(文芸春秋)だからです。 本書は直接小学校英語教育を論じた本ではありません。しかし「教育」を論じた本でもあるのです。小学校の英語活動に日々努力なさっている先生方も、間違いなく「教育」に従事しています。その意味で誰にも深く関係している話題だと考えました。

  ところで本書を読まれた方も多いと思います。簡単に内容紹介しますと、第1章 「私の原点」 第2章 「自立する国家」 第3章 「ナショナリズムとはなにか」 第4章 「日米同盟の構図」 第5章 「日本とアジアそして中国」 第6章 「少子国家の未来」 そして第7章 が「教育の再生」です。

  私が取りあげようとするのは第7章 「教育の再生」です。理由は次の通りです。ここのところ教育に競争を持ち込もうとする傾向は、次第に強くなって来ていることは疑えません。別の言い方をすれば、教育に対する行政指導の強化という形をとっています。そのことによって教育のレベルを向上させようという方向をねらっています。それには政治の強い意志が反映されているわけです。この功罪はどうなのでしょうか。私は罪だけを指摘する気はないのです。

  私が45年以上も前に中学校の教師になったころには、放課後、宿直室に集まって、先輩教師たちはマージャンに興じていたことがありました。もちろん特別の例かもしれません。校長自身、宿直室をのぞきに来て、麻雀をやっている先生がたの背後から「イヤ、こっちの手の方が良いのではないか」などとアドバイスをしていたのを鮮明に覚えています。今なら懲戒免職モノでしょう。そういう経験を教師に成り立ての頃見てしまったモノですから、いわば「たるんだ教師」のためにも何らかの方策を講じるということは、全面的に否定する気にはなりません。

 でも気にかかることもあります。 「競争は教育に馴染むか」という問題です。たとえば学力の低下ということは、現在大きな問題になっています。その対策として、いちばん分かりよいやり方は、学力テストをやろうという方向です。学力テストというのは教師の学力をテストするわけではありません。「学力をあげろ」と言われた教師のすることは、まず「勉強しろ」と生徒にプレシャーをかけることになります。

  ところで生徒の学力はでこぼこです。1.2年でも教師をやった人間なら分かることですが、同じ指導を受けても、出来る生徒、中位の生徒、全然できない生徒は存在するのです。そしてそれは自然なことなのです。ここに強いプレシャーをかけるとどういうことになるのか。力の発揮できない生徒はどうなのか。私は物事をいたずらに単純化する気はありませんが、生徒をめぐるいじめなどを含めた心の病理現象が生じてくる原因と、このことが全然無関係とは思えません。

 さて安部首相はどう考えているのでしょうか。本書を読んでみたら分かるのですが、イギリスのサッチャー首相の教育改革をお手本にしようとする心は、かなり明瞭です。彼は次のように述べています。

 次が教育水準の向上である。イギリスでは戦後、国が教育内容をチェックするという仕組みがなく、現場の自主性に任されていた。そのため、数も満足に数えられない子供達が続出したのである。これを立て直すべく、まず国定のカリキュラムをつくり、全国共通学力テストを実施した。そして、教育省から独立した女王直属の学校査察機関を作り、5000人以上の査察官を全国に派遣して、国定カリキュラムどおりに教育が行われているかどうかを徹底的にチェックした。 その結果、水準に達してないことがわかった学校は、容赦なく廃校にした。その数は100以上に及ぶ。そういう学校に教師を送り出している大学の教育学部までがつぶされた。

 もちろん、この改革は現場教師の猛反発をくらうことになった。国会にはデモ隊が押し寄せ、教育大臣の人形が焼かれたり、教員のストが半年も続いたりした。しかしサッチャーは一切妥協しなかった。そしてついに教育改革をやり遂げたのである。

  この内容はすざましいモノです。 「5000人以上の査察官を全国に派遣する」 「水準に達していない学校を100校以上容赦なく廃校にする」 「そういう学校に教師を送り出している大学の教育部までもつぶす。」 というモノです。日本の場合で考えてみてください。

 4月5日読売新聞は、ロンドン東部、ニューハム区、モネーガ小学校のサラ・ブルークスさん(50)が自宅近くの公園の中の森の中で、遺体で発見されたことを報じています。ブルークスさんが行方不明になったのは、学校に教育水準局の監査が入る日の朝だったそうです。

  英国最大の教員組合UNTのステイーブ・シノット書記長(55)は、学校監査について 「実際はアラ探しの道具に使われており、懲罰的姿勢は変わらない。監査結果が悪いと辞めさせられかねない教師たちは、戦々恐々だ。」 「監査やテストのプレッシャーで教師は押しつぶされそうになっている。」 と声を荒げているそうです。 また英国在住のジャーナリスト阿部菜穂子さん(48)は 「教師たちの最大の悩みは、画一的な教育が強いられ、自由で創造的な授業ができないことだ。」 と指摘しています。 さて皆さん、どう思われますか。 安倍首相の論調は本書の中でも述べているように、イギリスのサッチャー改革を好意的にとらえています。むしろお手本にすべきというとらえ方です。

  たるんだ教師がいるのは困りモノです。しかし、同時に私の疑問は「競争は教育に馴染むか」ということです。そのことを皆さんとともに考えたい。

 私にも確固たる結論があるわけではなく、それで(皆さんと一緒に考えたい)と問題提起をしているのです。 ただ考えていることはあります。それは「競争の教育ではなく、共生の教育」ということです。共生は、激しく対立する国と国を殺しあわないようにさせる共生、ひたひたと迫ってくる自然環境の破壊を食い止めるための共生、森山や川の豊かさを守る共生、と大きく考えるべきでしょう。それは命を守ることにつながります。 いま私たちは、この国日本に豊かさをもたらす「共生の教育」について皆さんと真剣に考え、新しい活気に満ちた教育を創り出す責任を一人一人が負ってるのではないでしょうか。そしてその方向に踏み出す時に来ていると考えているのは私だけではないと願っているのです。

 

▼ 言語習得と脳に関わる2つの本       千葉大学 大井 恭子
2007年2月15日

 最近、言語習得と脳科学に関する2つの本を読みました。ある意味で対照的な2冊の本でした。一つは黒川伊保子著『日本語はなぜ美しいのか』(集英社新書)。もう一つは大石晴美著『脳科学からの第二言語習得論』(昭和堂)です。

 まず『日本語はなぜ美しいのか』ですが、これは安倍首相の「美しい日本」を意識して書かれているとともに、小学校英語導入に対する断固反対のメッセージを発することを意図されて執筆されたものです。内容を一言でいうと、「発音体感がことばの本質である」(p.103) ということになると思います。

  「母語とは何か」のところで、著者は日本語の「おはよう」に関して次のように書いています。 「朝よ、おはよう」母親がそう言って、赤ちゃんを抱き上げるシーンを想像してほしい。アサという発音体感には、さわやかな開放感がある。オハヨウは、…二拍目のハを中心にして発音される語で、弾むような開放感を持っている。
中略)
  「Good morning」は「おはよう」に比べると、くらく物憂げなのは事実だ。英語圏の人たちの朝は、日本人の朝より少し静かに始まるようである。考えてみれば、このことばを生んだ英国は日本よりずっと緯度が高いので、日本のように、年中、朝の光がまぶしいわけではない。

 というように、発音体感と意識と所作、そして情景が一体となっているということを筆者は熱をこめて語っています。(ところどころで「脳」にも言及しています)。こういう内容のことは私自身はるか昔、大学院で「Sound Symbolism(音象徴)」ということで勉強したことを思い出しました。しかし、そのとき教授は「この考えの行き過ぎはよくない」と釘を刺していたこともしっかり記憶しています。著者はこの分野での研究の遅れを嘆き、自分は日本語の「音素一つ一つの発音体感が喚起する意識の質を見出し、数値化するのに1ヶ月しかかからなかった。日数的には中学生の夏休みの自由研究レベルである」と述べています(p.152)。さて、音韻研究が専門の方がこの方のご研究をどう判断されるか、成り行き注目したいです。

  というわけで、まったく環境も音感も異なる「英語」を教えることによって子どもたちの中の「美しい日本語」が侵食(穢されて)されてしまうことに危惧を抱いてこの本を執筆した、というように説明しています。

 もう一冊の『脳科学からの第二言語習得論』は昨年のJACET新人賞を獲得した本です。脳科学というと、医学を学んでいる人たちの専売特許であり、私など英語教育にいるものが立ち入ることができない領域かと思っておりました。しかし、この大石さんは、果敢にもご自分から大学院の指導教官に「脳科学と言語習得」の研究を持ちかけ、それできちんとした研究成果を発表されています。それには「光ポトグラフィー」の応用が身近にできるようになったことが一番の成功要因でしょう。いずれにしましても次のような研究結果を得ています。

1)第二言語処理は、学習を積み重ねると意識的処理から無意識的処理になっていくことが学習者の脳活性状態から判断することができた。これはKrashen (1977)の提唱した「習得―学習仮説」に反する結果である。
2)実験参加者において、習熟度が高いほど左脳が活性化している結論を得て、段階仮説及び左脳優位説が指示された。
3)初級学習者も上級学習者も左脳の方が前頭葉より顕著に活性度が高いという結論が得られ、言語のモジュール性、ワーキングメモリの分散協調説を支持する結果となった。

  等、大変興味深い結果が発表されています。 あまりにも面白く、ついついこちらも追実験したくなってしまうような気持ちにさせられました。 言語と科学,いろいろ考えさせられました2冊のご紹介です。どちらも一読をお勧めします。

▼ 国際的な視野に立って小学校英語を考えよう。 
                             京都ノートルダム女子大学 高梨 庸雄
2006年12月15日

 日本の小学校英語は、関係者のご苦労やご努力にもかかわらず、すっきりした結論がなかなか出てこないのは残念である。しかし、その論争はひとまず脇に置いて、日々、日本の小学校で行われている英語教育(活動・会話)を国際的な視野において眺めてみよう。そうすれば日本の小学校英語教育は、良く言えばかなりユニークで、農業に喩えれば、蒔いた種子は芽を出したが、どのように育って、どんな実をつけるのかは、これからの育成次第ということになろう。肥料のやり方も大切だし、変な虫がつかないように気をつけることも必要である。そういう意味では小学生と同じである。伸び盛りなのであるから、あまり枠をはめないで伸び伸びと育てたい。「指導法はこれしかない」と言わんばかりに、一つの指導パターンを押しつけるのは厳に慎むべきである。表看板には国際理解教育を掲げているのだから、内情があまりに日本的になるのも考え物である。

 そのためには、英語が母語でない児童を対象に英語を指導している国々の例からヒントを得ることも必要である。ある調査によれば(『論座』12月号、2006,p.230)、米国マサチューセッツ州のボストン学区だけで,114カ国,60言語の人種・民族を抱えているという。また、筆者が調査している州のカリキュラム(母語が英語以外の小学校生用)では、周囲で英語が日常使われているという環境ではあるけれども、認知レベルのかなり高い活動を幼稚園児から始めている事実がある。翻って我が国の現状を見ると、小学校高学年の児童に歌やゲームを主とする授業を行なっている学校もかなり見受けられる。これでは児童が英語嫌いになっても不思議ではない。

  かつて、中学校学習指導要領に「事柄の概要・要点をとらえながら読む」ことが導入されたとき、「そんな高級なことは大学生でも難しい」と書かれた偉い先生がおったが、段落指導は日本でも米国でも小学校4年生から始まっている。小学生の頭脳をあまり低く見てはいけない。

 以下に紹介するホームページ(以下HPと略す)は、教材や指導アイデアなどが欲しいときに覗いてみると結構参考になると思われるので紹介する。「全部英語で書いてあるんでしょう?見ただけで頭が痛くなりそう。」などと早合点しないでいただきたい。次のソフトウエアをインストールして、メニューバーにある「翻訳」というボタンをクリックすると、一発で日本語のホームページになるからである。Googleという検索ソフトで,その使い方は日本語の文庫本や新書版でかなり出版させている。まず,下記の青字の部分にカーソルを載せると,吹き出しに「コントロール・キーを押しながらクリック」と出ますので,その操作を行ってください。画面右側に「ツールバーをダウンロード」とでますので,それに従ってください。最初は少し時間がかかりますが,あせらないで待つことが大事!
http://toolbar.google.com/T4/intl/ja/index_xp.html

これでツールバーにGoogleが入っているかと思います。次のアドレスも登録しておけば, http://www.google.co.jp/webhp?sourceid=navclient&hl=ja&ie=UTF-8

検索したいものをそこに書き込むと,いつでも検索できることになります。 以下のHPにアクセスするときも,アドレスにカーソルを載せると「Ctrlキーを押してクリック」と出ますので,そのように操作して下さい。アドレスが藤色になれがOKです。

 次のHPはIATEFL(=International Association of Teachers of English as a Foreign Language)という学会の早期英語教育のページである。勿論、母語が英語以外の児童に対する英語教育も扱っている。ヨーロッパでは最大の英語教育学会であるから,HPのメニューも豊富である。http://www.countryschool.com/younglearners.htm

 今度は日本のHPを紹介しよう。英語の読み聞かせを専門に研究・指導されている櫻井美紀さんが主催しているものである。私が下手な説明を加えるよりは、直接HPにアクセスしてStory Tellingについて勉強してみよう。
http://www5b.biglobe.ne.jp/~miki-s/index.html

 最後にBBC/British Councilが運営しているHPを見てみよう。BBCはイギリスを代表するメディアであり、British Councilは海外での英語の普及と英国の生活と文化の紹介を目的とする英国政府後援の組織である。インターネットは外国の事情を見る窓にもなるし、 http://www.teachingenglish.org.uk/think/read/elem_read.shtml
日本の英語教育を写す鏡にもなる。日本で行なわれている英語教育は本当にこれでいいのだろうかと考えてみることも必要である。Reflective Teachingは時代のキーワードである。このコーナーはBookshelfという名前であるが,広く参考文献欄と考えて、良い本や教材,アイデア等の載っている文献(含むe-books)を紹介していただくという趣旨のコーナーである。